セパタクロースペクタクル

 なんだって俺はこんなところでカツカレーを頬張らなきゃならんのだ。昼休みだからと食堂へ行き、カツカレーを注文したまでは良かった。良かったんだよ。でもそこからが俺のミスの始まりだ。まず、席が空いているかどうかを予め確認することを怠った。たいして並んでるわけでもないのに空席がなかったのはおかしいんだけど、それはともかくとして席がなかったということに気づかなかったわけだ。もちろん、そんな状況を作りやがったカードゲーム同好会のバカどもには内心少なからず思うところがあるのは確かだ。なんであいつらあんなに人数多いんだ。ムダに多いぞ、あれ。そもそもがタイマンで遊ぶゲームのくせしてあんな蒸れる必要ないだろ。そして食堂を大会の会場にすることもないだろ。思い出しただけでイライラしてきた。人が楽しそうな姿っていうのは怒りしか覚えねえな、ここんところはもうずっとそんな気分で日々を生きてるんじゃねぇかなって気がするわ。ともあれ、第一に食堂の席が空いていなかったというのがすべての始まりだよ。そっからだ。カツカレーのお盆を手に立ち尽くすなんて姿はみっともなかったわけだ。俺のプライドが痛く傷つけられたことは言うまでもないだろう。そもそもカツカレーだぞ? こちとら今回の昼食にまあまあ気合い入れて乗り込んできてるのよ。それをこんな恥を晒す羽目になるなんて思いもしなかったんだ。でも、ここにいる限りは衆人環視の中で立ち食いするしか手がない。こんな……何が悲しくてカツカレーを食堂で立ち食いしなきゃいけないんだよ。死にたくなるな、本当に。だから俺は外へ出た。食堂がだめなら他の場所で席を見つければいい。広場のテーブルとか公園のベンチとか噴水前のベンチとかな。そうさ、候補はいくつもあった。どこも空いてなかったけどな。何だ今日は一体。俺に対して何の恨みがあるんだ、こいつらは。ベンチに座る輩もテーブルで談笑する輩もこっちの心の内とかここにたどり着くまでの事情とか一切関係なく楽しそうにしてやがったよ。やってられねぇわ。こうして探しているうちに当然のごとく時間が過ぎていく。俺のカツカレーも冷めてきていた。湯気はとっくのとうに消えている。何が悲しくて冷めたカツカレーを立ち食いしなきゃいけないんだ。でも、このままでは昼休みはもうじき終わってしまう。さすがに抑えきれなくなった怒りを隠す気も失せてきた俺は敷地内で食べることを諦めた。近所の公園だったらまだ行けるんじゃないかなと思ったんだ。その結果がここだ。踏切さんよ、どうしてお前は開こうという素振りすらみせんのだ。なんでも人身事故があったそうだ。そんなのどうだっていいだろう。俺のプライドも自殺したくなるくらいにはダメージを受けてきてるんだよ。開かずの踏切、その手前で冷めたカツカレーを手に立ち尽くす俺。思い出したね、俺は。こういう状況を前にも経験したことがある。クソを漏らしたときだ。シチュエーションは全く違うが、今の気持ちとあのときの気持は同じだった。時計の針を一瞥し、俺はカツカレーを口に運んだ。やってられない味だった。悔しいけど美味しかった。あとは踏切が開けばいいのにな。もう昼休みが終わっちまうよ。

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